テンソルの主値と主軸
前回のこちらの記事で、異なる固有値\(\lambda_i\)に対応する固有ベクトル\(\vec{\phi_i}\)は直交することを示しました。それでは次のような、式を使って、固有ベクトルの長さを1にして、基底ベクトルを作りましょう。
\[\bar{\vec{e_i}}\equiv \frac{\vec{\phi_i}}{|\vec{\phi_i}|}\]
なお、上の式では総和規約は使いません!
この作った基底ベクトルも互いに直交するので、次式が成り立ちます。
\[\bar{\vec{e_i}}\cdot\vec{X}\cdot\bar{\vec{e_j}} = \delta_{ij}\lambda_i \bar{\vec{e_i}} \cdot\bar{\vec{e_j}}\]
つまり、\(i=j\)のときだけ、値を持つということですね。
ここで
\[\bar{\vec{e_i}}\cdot\vec{X}\cdot\bar{\vec{e_j}}\equiv \bar{X}_{ij}\]
とすれば、
\[\bar{X}_{11} = \lambda_1, \bar{X}_{22} = \lambda_2, \bar{X}_{33} = \lambda_3, \]
\[\bar{X}_{ij} = 0 (i\neq j)\]
となります。
上式のようにテンソルの成分を変換するような基底は存在し、この際のテンソルの固有値を主値、固有ベクトルからなる基底を主軸と呼びます。
テンソルの不変量
主軸を使ったテンソルのディアディック表示と正定値テンソル
主軸を使ってテンソルをディアディック表示すると次のように書ける。
\[\vec{X} = \lambda_i (\bar{\vec{e_i}}\otimes\bar{\vec{e_i}})\]
テンソル\(\vec{X}\)に任意のベクトル\(\vec{b}\)を左右から作用させると
\[\vec{X}\cdot \vec{b} = \lambda_i(\vec{b}\cdot\bar{\vec{e_i}})\bar{\vec{e_i}}\]
\[\vec{b}\cdot \vec{X}\cdot \vec{b} = \lambda_i(\vec{b}\cdot\bar{\vec{e_i}})^2\]
ここで次の式を満たすテンソル\(\vec{X}\)は正定値テンソルと呼ばれます。正定値テンソルの重要な性質としてすべての固有値\(\lambda_i > 0 \)でなければなりません。逆に、すべての固有値が正ならば、そのテンソル\(\vec{X}\)は正定値テンソルと呼べます。
テンソルの固有値問題のディアディック表示と不変量
この記事で示したように、テンソルのディターミナントの性質を利用すると次のように式展開ができます。
\[\mathrm{det}(\vec{X}-\lambda\vec{I})=e_{ijk}(X_{1i}-\lambda I_{1i})( X_{2j}-\lambda I_{2j} )( X_{3k}-\lambda I_{3k} )\]
ここで、単位テンソル\(\vec{I}\)の成分\(I_{ij}\)は\(\delta_{ij}\)であること注意してこの式を展開しましょう。すると
\[\begin{align} \mathrm{det}(\vec{X}-\lambda\vec{I}) &= e_{123}(X_{11}-\lambda)(X_{22}-\lambda)(X_{33}-\lambda) \\ &+ e_{132}(X_{11}-\lambda)X_{23}X_{32} \\ &+ e_{231}X_{12}X_{23}X_{31} + e_{213} X_{12}X_{21}(X_{33}-\lambda) \\&+e_{312}X_{13}X_{21}X_{32} + e_{321} X_{13}(X_{22}-\lambda)X_{31} \end{align}\]
となります。ここで、エディントンのイプシロンに注意して式をまとめると次のようになります。
\[\begin{align} \mathrm{det}(\vec{X}-\lambda\vec{I}) &= -\lambda^3 + \lambda^2(X_{11} + X_{22} + X_{33}) \\&- \lambda(X_{11}X_{22}+X_{22}X_{33}+X_{33}X_{11})\\ &+ \lambda(X_{12}X_{21}+X_{23}X_{32}+X_{13}X_{31}) \\ &+e_{ijk}X_{1i}X_{2j}X_{3k}\tag{A}\end{align}\]
上式の最後の行は、テンソルのディターミナントの定義式より、\(\lambda\)との掛け算にならない項はそのまま\(\mathrm{det}\vec{X}\)になることから導けますね。
このように式展開をすると、結局のところ次のような\(\lambda\)についての3次式で表現できることが分かります。
\[\begin{align}\mathrm{det} (\vec{X}-\lambda\vec{I}) \equiv – \lambda^3 + I_1 \lambda^2 – I_2 \lambda + I_3 = 0 \end{align}\]
これらを1次、2次、3次の不変量と呼びます。
テンソルの不変量のテンソルの成分による表現
1次の不変量\(I_1\)は式(A)より
\[I_1 = X_{11} + X_{22} + X_{33} = X_{ii} = \mathrm{tr}\vec{X}\]
となります。
また、2次の不変量\(I_2\)は
\[\begin{align} -I_2\lambda &= -\lambda(X_{11}X_{22} + X_{22}X_{33} + X_{33}X_{11} \\ &-X_{12}X_{21} – X_{21}X_{32} – X_{13}X_{31}) \\ &= -\lambda\frac{1}{2}((X_{ii})^2 – X_{ij}X_{ji}) \end{align}\]
となる。
ここで、上の記事の関係を利用すると
\[\mathrm{tr}(\vec{X}\cdot\vec{Y}) = X_{ik}Y_{ki}\]
\[\mathrm{tr}(\vec{X}^2) = X_{ik}X_{ki}\]
より、
\[I_2 = \frac{1}{2}((\mathrm{tr}\vec{X})^2 – \mathrm{tr}(\vec{X}^2))\]
となります。トレースなどテンソルの性質を利用するときれいに書けるのがうれしい。。笑
最後にテンソルの第三不変量\(I_3\)は
\[I_3 = \mathrm{det}\vec{X}\]
となります。まとめると
\[\begin{align} I_1 &= \mathrm{tr}\vec{X} \\ I_2 &= \frac{1}{2}((\mathrm{tr}\vec{X})^2 – \mathrm{tr}(\vec{X}^2)) \\ I_3 &= \mathrm{det}\vec{X} \end{align}\]
となります。これらは、テンソルそのものに関連する値なので、座標系の選択には依存しません。このため、「不変量」と呼ばれます。
テンソルの不変量の固有値による表現
次に3次方程式の根と係数の関係から、テンソルの不変量を表してみましょう。
\[f(\lambda) = – \lambda^3 + I_1 \lambda^2 – I_2 \lambda + I_3 = 0 \]
この解が\(\lambda_1, \lambda_2, \lambda_3\)のとき、
\[f(\lambda_1) = f(\lambda_2) = f(\lambda_3) = 0\]
となります。したがって、\(f(\lambda)\)を因数分解すると、
\[f(\lambda) = -(\lambda-\lambda_1) (\lambda-\lambda_2) (\lambda-\lambda_3)\]
と書けますね。
これを展開すると
\[ (\lambda-\lambda_1) (\lambda-\lambda_2) (\lambda-\lambda_3) = \lambda^3 – I_1 \lambda^2 + I_2 \lambda – I_3\]
なので、左辺を展開すると次のような関係が得られます。
\[\begin{align} I_1 &= \lambda_1 + \lambda_2 + \lambda_3 \\ I_2 &= \lambda_1 \lambda_2 + \lambda_2 \lambda_3 + \lambda_3 \lambda_1 \\ I_3 &= \lambda_1\lambda_2\lambda_3 \end{align}\]
となります。これで、固有値が分かれば、テンソルの不変量を計算できるようになることが分かります。
まとめ
不変量のテンソル成分による表現
\[\begin{align} I_1 &= \mathrm{tr}\vec{X} \\ I_2 &= \frac{1}{2}((\mathrm{tr}\vec{X})^2 – \mathrm{tr}(\vec{X}^2)) \\ I_3 &= \mathrm{det}\vec{X} \end{align}\]
不変量の固有値による表現
\[\begin{align} I_1 &= \lambda_1 + \lambda_2 + \lambda_3 \\ I_2 &= \lambda_1\lambda_2 + \lambda_2 \lambda_3 + \lambda_3 \lambda_1 \\ I_3 &= \lambda_1\lambda_2\lambda_3 \end{align}\]