ベクトルの内積・外積の総和規約表現

連続体力学

テンソルの勉強をするうえで一番最初に重要なことの一つが、総和規約の表現だ。ここでは、ベクトルの内積や外積を使って総和規約を練習する。

総和規約とは

3次元ユークリッド空間の任意のベクトル\(\vec{b}\)を成分表示したときに\(\{b_x,b_y,b_z\}\)と書くとすると,その意味は

\[\vec{b} = b_x \vec{e_x}+b_y \vec{e_y} + b_z \vec{e_z} \]

のように\(\vec{b}\)を直交座標系の単位ベクトル\(\vec{e_x}, \vec{e_y},\vec{e_z}\)で分解したときの係数が\(\{b_x,b_y,b_z\}\)である。

ここで\(\vec{e_x}, \vec{e_y},\vec{e_z}\)を基底と呼ぶ。

ここで、x,y,zで表現するのが面倒なので、次のように上式を書き換えて考える。

\[\vec{b} = b_1 \vec{e_1}+b_2 \vec{e_2} + b_3 \vec{e_3} \tag{1} \]

このように書くと、総和記号によって書けるから便利だ。

\[\sum_{i=1}^{3}b_i\vec{e_i} \tag{2}\]

さて、ここで、総和規約を使うと式(2)はさらに簡単に書ける。

\[\vec{b} = b_i\vec{e_i}\]

ここで総和規約とは添え字が、積や記号の中で2個以上存在する場合、その添え字を擬標(dummy index)とよび、擬標をΣの記号なしで1~3まで足すものとするルールである。また、積や記号の中で1個だけの添え字を自由標(free index)とよぶ。自由標の総和はとらないことに注意が必要だ。

つづいて、クロネッカーのデルタとエディントンのイプシロンと呼ばれる、(響きがかっこいい)定義を合わせて覚えておくとこの総和規約は劇的に使えることが増えるのだ。

クロネッカーのδ

添え字のiとjが同じ時だけ1、それ以外が0となるような記号をクロネッカーのデルタとよぶ。

\[\delta_{ij}=\left\{\begin{array}{l}1:i=j\\0:i\neq j \\ \end{array} \right. \]

エディントンのε

エディントンのイプシロンと言っておきながら、いろんな書物では記号はeを使うことが多い気がする。(なぜかは知らない)

エディントンのイプシロンは交代記号ともよばれる。このブログではエディントンのイプシロンで統一して表記する。エディントンのイプシロンの定義は以下のようになる。

\[e_{ijk}=\left\{\begin{array}{l}1:i,j,kが1,2,3の偶置換\\-1:i,j,kが1,2,3の奇置換\\0:2個以上の添え字が等しいとき\\ \end{array} \right. \]

となる。ここで奇置換、偶置換の違いは順番を入れ替える回数が奇数回か偶数回かの違いである。たとえば\(e_{123}\)で、1と2を入れ替えると\(e_{213}\)となる。これは1回の置換なので、\(e_{123}=-e_{213}\)となる。また、1と2を入れ替えて、2と3を入れ替えると\(e_{312}\)となりこの変換は2回なので\(e_{123}=e_{312}\)となる。

総和規約の練習

慣れていない人のために(というか慣れている人は速攻でこのページを閉じるべきだ。何も得られるものはない)練習しよう。

\(\delta_{ij}\delta_{ij}\) という項を考える。ここで、この項にはiもjも2回出ているので

\[\sum_{i=1}^3 \sum_{j=1}^3 \delta_{ij}\delta_{ij}\]

を表している。ここで、\(i=j\) の時以外は0となることに注目すると\(i=j=1, i=j=2, i=j=3\)の3項のみ残り、\(\delta_{ij}\delta_{ij}=3\)となる。

次に\(e_{ijk}e_{jki}\)という項を考える。これは{ijk}と{jki}は偶置換であることから

\[e_{ijk}e_{jki}=e_{ijk}e_{ijk}\]

となることに注意する。ここで、\(e_{ijk}\)におけるi,j,kの組み合わせは3x3x3の27通りあるが、値が0以外となるのは6通り(1,2,3),(1,3,2),(2,1,3),(2,3,1),(3,1,2),(3,2,1)で、それぞれ2乗するので\[e_{ijk}e_{jki}=6\]

となる。

ベクトルの内積

さて、ベクトル\(\vec{a}\)を\(\vec{a}= a_i\vec{e_i}\),ベクトル\(\vec{b}\)を\(\vec{b}= b_j\vec{e_j}\)と表すとき、ベクトルの内積を考える。

一般にベクトルの内積は

\[\vec{a} \cdot \vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos{\theta}\]

となる。ここで\(\theta\)はベクトルのなす角を表す。これを総和規約を使って表現すると

\[
\begin{align}\vec{a}\cdot\vec{b} &= a_i b_j \vec{e_i} \cdot \vec{e_j} \tag{3} \\&=a_i b_j \delta_{ij} \tag{4} \\ &= a_i b_i \end{align}\]

となる。ここで、式(3)から(4)の変換では、\(\vec{e_i} \neq \vec{e_j}\)のときのベクトルのなす角が90度であることを考えればよい。

この式展開を考えると、総和規約めちゃくちゃ楽だということがおわかりいただけただろうか。

ベクトルの外積

ベクトル\(\vec{a}\)と\(\vec{b}\)の外積は、

\[\vec{a} \times \vec{b}=(|\vec{a}||\vec{b}|\sin{\theta})\vec{n}\]

と表現される。ここで\(\vec{n}\)は\(\vec{a}\)と\(\vec{b}\)が作る平面に垂直な単位法線ベクトルである。一般に、各成分は次のようにもかける。

\[\vec{a} \times \vec{b}=\left\{\begin{array}{c} a_2b_3 – a_3b_2 \\ a_3b_1 – a_1b_3 \\ a_1b_2 – a_2b_1 \end{array} \right\} \]
このため、エディントンのイプシロンを利用すると

\[\vec{a} \times \vec{b}=e_{ijk}a_j b_k \vec{e_i} \]

と書ける。総和規約を利用すると簡単に書ける。

タイトルとURLをコピーしました