テンソルの性質 その9 テンソル場の微分

連続体力学

ここではテンソル場の微分について説明します。テンソル場の微分は、ガウスの発散定理の理解のためにも必要な概念で、ガウスの発散定理は物体の内部の力と表面力を記述するために必要です。

とはいえ、いきなりテンソル場の微分と言っても、わかりにくいかもしれないのでスカラー場、ベクトル場の微分について考えてから、テンソル場の微分について説明します。

場って何

スカラー\(a\)、ベクトル\(\vec{b}\)、テンソル\(\vec{X}\)が空間のある領域に分布し、位置ベクトル\(\vec{x}\)の関数\(a(\vec{x}), \vec{b}(\vec{x}), \vec{X}(\vec{x})\) として定義されるとき、これらはスカラー場ベクトル場テンソル場と呼ばれます。

スカラー場、ベクトル場、テンソル場では、空間微分ができるものとします。つまり次のような微分が成立します。

\[\frac{\partial}{\partial \bar{x}_i} = \frac{\partial x_j}{\partial\bar{x}_i} \frac{\partial}{\partial x_j} = P_{ij} \frac{\partial}{\partial x_j} \tag{a}\]

ここで\(P_{ij}\)は方向余弦です。方向余弦ってなんだったっけ?と思った方は、以下のリンクを読んでくださいね。

スカラー場の微分

さて、スカラー場の微分をやりましょう。異なる座標系で同じ一点のスカラー値について考えましょうつまり、\((x_1,x_2,x_3)\)と\((\bar{x}_1,\bar{x}_2,\bar{x}_3)\)が同じ点をあらわしているものとしましょう。同じ点のスカラー値なのでそれぞれ\(a, \bar{a}\)と表すと

\[a(x_1,x_2,x_3) = \bar{a} (\bar{x}_1,\bar{x}_2,\bar{x}_3) \]

となります。式(a)よりスカラー場の微分は

\[\frac{\partial \bar{a}}{\partial \bar{x}_i} = P_{ij} \frac{\partial a}{\partial x_j}\]

となる。これは、方向余弦の定義より、スカラー場の微分では、\(\frac{\partial a}{\partial x_j}\)を成分とするベクトル場があることが分かります。このベクトル場を

\[\nabla a \equiv \frac{\partial a}{\partial x_j}\vec{e_j}\]

と表します。ここで\(\nabla\)はナブラとよばれ、

\[\nabla = \frac{\partial}{\partial x_j}\vec{e_j}\]

と置けば見かけ上、一つのベクトルとして取り扱うことができます。また\(\nabla a\)を\(a\)の勾配と呼び、\(\mathrm{grad}a\)と表すこともあります。

ベクトル場の微分

次にベクトル場の微分について考えます。スカラー場と同様に、二つの座標系\(x_1,x_2,x_3\)と\(\bar{x}_1,\bar{x}_2,\bar{x}_3\)で同じベクトルを表現し、それぞれ\(\vec{b}\),\( \bar{\vec{b}}\)と書くことにします。これを成分表示すると

\[b_i \vec{e_i} = \bar{b}_j \bar{\vec{e_j}}\]

となります。このベクトルの微分は

\[\pardiff{\bar{b}_j}{\bar{x}_k} = P_{kl} \pardiff{\bar{b}_j}{x_l} = P_{kl}\pardiff{(P_{ji}b_i)}{x_l} = P_{kl} P_{ji} \pardiff{b_i}{x_l} \]

となりスカラー場の微分に比べて、方向余弦の数が増えていることが分かります。このように座標変換に方向余弦が2個必要な場合、それは2階のテンソルであるといえます。

また、ベクトル場の勾配を\(\mathrm{grad} \vec{b}\)と表現します。

ベクトルの勾配の2通りの定義

ベクトルの勾配には2通りの定義がありそれぞれ、後形と前形と呼びます。それぞれ以下に示します。

これは後形とよばれる定義です。

\[\mathrm{grad}\vec{b} = \pardiff{b_i}{x_l} \vec{e_i}\otimes \vec{e_l} = \vec{b} \otimes \nabla \tag{b}\]

こちらは前形と呼ばれる定義です。

\[\mathrm{grad}\vec{b} = \pardiff{b_i}{x_l} \vec{e_l}\otimes \vec{e_i} = \nabla \otimes \vec{b} \tag{c}\]

b式とc式を比べると、テンソル積の順序が後形と前形で異なります。
ここで、\(\otimes \nabla\)となり\(\nabla\)が後ろ側に来るものを後形、\(\nabla \otimes\)と\(\nabla\)が前に来るものを前形と呼びます。

以後、後形のものを中心にこのブログでは説明します。

ベクトルの発散

ベクトル\(\vec{b}\)の発散 \(\mathrm{div}\vec{b}\) は次のように表現できます。

\[\mathrm{div} \vec{b} = \vec{b}\cdot \nabla = b_i \vec{e_i} \cdot (\pardiff{}{x_j})\vec{e_j} = (\pardiff{b_i}{x_j})\delta_{ij} = \pardiff{b_i}{x_i}\]

ベクトルの回転

ベクトル\(\vec{b}\)の回転\(\mathrm{rot}\vec{b}\)は次のように表現できます。

\[\mathrm{rot}\vec{b} = \vec{b} \times \nabla = b_i \vec{e_i} \times (\pardiff{}{x_j})\vec{e_j} = (\pardiff{b_i}{x_j})e_{ijk} \vec{e_k}\]

となります。交代記号があると便利ですね。

2階のテンソル場の微分

2階のテンソルの座標変換では2個の方向余弦が必要でした。テンソル場の微分したものでは方向余弦が3個必要になります。つまり3階のテンソルが出てきます。

構造力学のテンソルでは3階のテンソルが2階、4階に比べるとあまり出てこないのでレアです。(どうでもいいですが笑)

\[\begin{align}\pardiff{\bar{X}_{ij}}{\bar{x}_k}&= P_{kl}\pardiff{\bar{X}_{ij}}{x_l} = P_{kl}\pardiff{(P_{im}P_{jn}X_{mn})}{x_l} \\ &=P_{kl}P_{im}P_{jn}\pardiff{X_{mn}}{x_l} \end{align} \]

2階のテンソルの勾配

2階のテンソルの勾配は次式のようになります。こちらも後形となっています。

\[\mathrm{grad}\vec{X} = \vec{X}\otimes\nabla = \vec{e_m}\otimes\vec{e_n}\otimes\vec{e_l} \pardiff{X_{mn}}{x_l}\]

2階のテンソルの発散

2階のテンソルの発散は次式のようになります。

\[\mathrm{div}\vec{X} = \vec{X}\cdot\nabla = (\pardiff{X_{mn}}{x_l})(\vec{e_m}\otimes\vec{e_n}) \cdot \vec{e_l} = \pardiff{X_{mn}}{x_l}\delta{nl}\vec{e_m} = \pardiff{X_{mn}}{x_n}\vec{e_m}\]

2階のテンソルの回転

2階のテンソルの回転は次式のようになります。

\[\begin{align}\mathrm{rot}\vec{X} = \vec{X}\times\nabla &= (\pardiff{X_{mn}}{x_l})(\vec{e_m}\otimes\vec{e_n})\times\vec{e_l} \\ &= (\pardiff{X_{mn}}{x_l})\{\vec{e_m} \otimes (\vec{e_n} \times \vec{e_l}) \} \\ &= (\pardiff{X_{mn}}{x_l}) (\vec{e_m} \otimes \vec{e_k}) e_{nlk} \end{align}\]

となります。

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