ここでは後々の式展開のために、テンソルの性質について説明します。
テンソルの演算ルールその1
テンソルの定義式より任意のベクトル\(\vec{a}\)と任意のテンソル\(\vec{X}\)に対して
\[\begin{align}\vec{X}\cdot\vec{a} &= (X_{ij} \vec{e_i}\otimes\vec{e_j})\cdot \vec{a} \\ &= X_{ij} (\vec{e_j} \cdot \vec{a})\vec{e_i} \\ &= X_{ij} a_j \vec{e_i}\end{align}\]
となります。ここではこの関係に加えて、ベクトル\(\vec{b}\)を前からかけた時に
\[\begin{align}\vec{b}\cdot\vec{X} &= \vec{b}\cdot(X_{ij} \vec{e_i}\otimes\vec{e_j}) \\ &\equiv X_{ij} (\vec{b} \cdot \vec{e_i})\vec{e_j} \\ &= X_{ij} b_i \vec{e_j}\end{align}\]
と定義します。
零テンソル、単位テンソル
任意のベクトル\(\vec{a}\)に作用させたときに、零ベクトル\(\vec{0}\)が得られるテンソル\(\vec{O}\)を零テンソルとよびます。
\[\vec{O}\cdot\vec{a} = \vec{0}\]
また、次のようなテンソル\(\vec{I}\)を単位テンソル(あるいは恒等テンソル)とよびます。
\[\vec{I}\cdot\vec{a} = \vec{a}\]
転置テンソル
テンソル\(\vec{X}\)に対し次のような性質を満たすテンソル\(\vec{X}^T\)を転置テンソルとよぶ。
\[\vec{b}\cdot(\vec{X}\cdot\vec{a}) = \vec{a}\cdot(\vec{X}^T\cdot\vec{b})\]
ここで\(\vec{a}\),\(\vec{b}\)は任意のベクトルです。上式に対し\(\vec{X}=\vec{c}\otimes\vec{d}\)とすれば、
\[(\vec{c}\otimes\vec{d})^T = \vec{d}\otimes\vec{c}\]
となることもわかりますね。このため、次のようにテンソルの転置はディアディック表示できます。
\[\vec{X}^T = (X_{ij}\vec{e_i}\otimes\vec{e_j})^T = X_{ij} \vec{e_j}\otimes\vec{e_i}\]
このページの一番上で定義した演算ルールを利用すると
\[\vec{X}^T\cdot\vec{b} = \vec{b}\cdot\vec{X}\]
となります。
対称テンソル
また、
\[\vec{X}^T = \vec{X}\]
が成立するテンソルを対称テンソルと呼びます。